【事例付】ジョブローテーション制度の目的、メリット・デメリットを解説。新しいキャリア形成の可能性とは

人材・教育

日本のビジネスパーソンのキャリア形成を担ってきたジョブローテーション。
ジョブローテーションとは、定期的に部門を異動させるキャリア形成の仕組みです。

今回は、ジョブローテーションの目的とメリット・デメリット、導入事例などを網羅的に紹介します。
この記事を通して、自社にジョブローテーションの導入は合っているのか、見直すきっかけにしてみてください。

(目次)
1.ジョブローテーションの意味を再確認しよう
1-1.ジョブローテーションとは?対象は?
1-2.ジョブローテーションの実施割合は?海外事情は?
2.ジョブローテーションのメリット・デメリット
3.ジョブローテーション制度を採用している企業事例
3-1.スタンダードなジョブローテーションの事例
3-2.自己申告型のジョブローテーションの事例
3-3.ジョブローテーションが日常という事例
3-4.社外にジョブローテーションという事例
4.時代の変化とジョブローテーションの関係
5.まとめ

1.ジョブローテーションの意味を再確認しよう


はじめにジョブローテーションを導入する理由、国内の導入率、海外事情などの基本的な要素を見ていきましょう。

1-1.ジョブローテーションとは?対象は?

ジョブローテーションとは、定期的に部門を異動させる「キャリア形成の仕組み」です。
導入理由としては、次の3つが挙げられます。

1.様々な部門・職種に配置することで適性を見極めやすい。
2.事業所や部門を横断した総合的なスキルが身につく(=ジェネラリスト育成)。
3.人材が足りない部門・職種に異動させやすい。

表向きは1と2のメリットを強調されますが、企業的には「3.人材が足りないポジションに異動させやすい」という大きなメリットがあります。
とくに経済成長の時代は、新しい支社や部門が次々立ち上げられたので、ジョブローテーションによってそれをカバーする側面もあり、便利な制度としても使われていました。
営業が突然総務になることも当然発生します。当初入社したときとは違う希望の仕事も点々とする可能性があるからこそ、企業による自由な人材配置の対価として、社員は終身雇用という安心を提供されていました。

しかし、基本的に現在行われるジョブローテーションの対象は、「新卒採用者」または「幹部候補生」です。

新卒採用者は、ビジネス経験がないため適性を見極めるのが困難ですが、ジョブローテーション制度を使えば様々な部門や職種を異動させて適性を見極めることが出来ます。幹部候補生は、その企業を将来リードする人材として幅広い視野が求められます。そのため、部門を横断して経験を積ませることが将来の管理職育成に役立つため、どちらも基本的には社員にとっても会社にとっても成長を図るための制度として使われています。

どれくらいの期間で部門を異動させるかはその企業によりますが、短くて半年、長く2・3年おきの異動が多く見られます。
あまりにも短い間でのローテーションは、それこそ人手不足のための手段として社員のモチベーションを下げてしまう可能性があるため注意しましょう。

1-2.ジョブローテーションの実施割合は?海外事情は?

ジョブローテーションは、零細企業やベンチャー企業よりも、中堅企業や大手企業を中心に導入されてきました。
これは、ベンチャー企業ではいくつかの役割をかけもちすることも多く、ジョブローテーションをしなくてもジェネラリストの養成が促されることも一因でしょう。

実際にどれくらいの企業がジョブローテーションを行っているのかをデータで確認してみると(※)、1000人以上の企業の実施率では、新入社員・若手社員いずれも34.6%でした。おおむね3社に1社はジョブローテーションを行っていることになります。

ちなみに、1000人以下の企業の実施率は、新入社員26.7%、若手社員28.3%です。1000人以上の企業に比べて、6〜8%下回っています。

一般財団法人 日本学習総合研究所「企業における人材育成 2015」 より

ジョブローテーションは、「日本独自のキャリア形成システム」だと一般的に言われており、海外ではほとんど行われていません。
これは「雇用そのものに対する考え方の違い」が大きいです。

海外のビジネスパーソンは、「キャリアアップの環境は自分でつくるもの」という意識が強いです。
ジェネラリスト、スペシャリストのどちらを目指すかを考えるのは、会社ではなく個人になります。
そして、ジェネラリストを目指すのであれば、自分自身で様々な職種を求めて積極的な転職を行っていくこともよくあります。

加えて、海外では「終身雇用」という考え方自体がありません。
ジョブローテーションの本質が、企業が自由に人材配置できる代わりに終身雇用を約束するというものだったからこそ、海外ではほとんど行われず、
また、現在の日本の働き方にもそぐわなくなってきました。

今の在り方や目的に合わせて、企業としてもジョブローテーション制度を見直さなければなりません。

2.ジョブローテーションのメリット・デメリット

前章でも触れましたが、まずは主なメリット・デメリットを確認しましょう。

〈メリット〉
・会社全体の業務の流れを理解しやすい。それにより部門単体ではなく「会社全体の利益を意識できる人材」を育成しやすい。
・様々な部門の悩みや問題点を深く理解できるため、経営層になった時に効果的な改善ができる。
・部門の垣根を越えて人材が流動することで交流が生まれ、会社全体が活性化する。
・いろいろな業務を担当することで刺激を得られ、若手のモチベーションアップに貢献する。
・部門を横断した知識とスキルを持った従業員が増え、配置変更を柔軟にできる。

 

〈デメリット〉
・部門(職種)によって給与・業務量が違う会社では、不平が出るかもしれない。
・部門の異動のたびに引き継ぎのロスタイムやスキル習得のムダが出る。
・どうせ異動しちゃうから、と思うと重要な業務を任せられない、もしくは業務バランスが偏る。
・スペシャリストの育成が出来ない。
・そもそもエンジニア中心のシステム会社など「スペシャリスト主体の会社」では出来ない

 

このメリットデメリットを踏まえると、たとえば「給与体系」を軸にすれば、部門ごとに待遇の差がある企業は不向きです。
異動のたびに給与体系を変えるとなると、法に則り雇用契約をクリアする必要がありますが、バックオフィスにも負担がかかり、ハードルは高くなります。
逆に言うと、部門ごとの待遇差がない企業や、企業内ではなく業務内(たとえば、営業部内のみで行うなど)の限られた範囲でのジョブローテーションは、比較的スムーズに行えると言えます。

また、退職率の高い企業はジョブローテーションには不向きです。せっかく期間を費やしてジョブローテーションを行なってもすぐやめてしまうなら不効率だし、
コロコロと仕事が変わることでモチベーションが下がり、余計に退職をあおってしまう可能性があります。
逆に、定職率が高く、新しい採用も頻繁に行わなくてもよい企業なら、刺激や風通しも兼ねてジョブローテーションを導入してみても良いでしょう。

ジョブローテーションを導入すべきか否か(あるいは廃止すべきか)については、さまざまな視点での検討が必要となります。
自社がどういう会社であるのか、改めて見つめなおす良い機会にもなるので、今ジョブローテーションに興味のある方は今一度自社と向き合ってみましょう。

3.ジョブローテーション制度を採用している企業事例


一言でジョブローテーションといっても、企業によって様々な形で導入されています。
いくつかの特徴的な事例をご紹介するので、自社で出来そうなものはないか確認してみてください。

3-1.スタンダードなジョブローテーションの事例

『はちみつ黒酢ダイエット』などのヒット商品で知られる食品メーカー、タマノイ酢株式会社。
数年おきに頻繁なジョブローテーションを行うことで、将来のリーダー育成を推進しています。
人材が流動化することで、役職や年齢にとらわれず、コミュニケーションが活発な社風を実現。
「社員全員が顔見知り」の環境をつくっています。

3-2.自己申告型のジョブローテーションの事例

一般のジョブローテーションは会社からの辞令で実施されますが、社員自らが「この部署に移りたい」と希望するパターンもあります。
大手広告代理店・電通では、希望が承認されれば他部門への異動が認められています。
たとえば、営業職からクリエイター職へ大胆に転籍し、成功している従業員も少なくありません。
専門職への異動を後押しするのは企業としても挑戦にはなりますが、頭ごなしに否定しないというのも社員を伸ばす方法だと分かります。

3-3.ジョブローテーションが日常という事例

モバイル通信の日本通信では、自由度の高いジョブローテーションを実施しています。
一般社員は毎朝、社内モニターでその日の自分の役割を確認。ひとつの業務は2時間単位で区切られ、平均的に2~3の仕事を担当しています。
もちろん、プロジェクトの内容によっては数ヶ月の継続業務を担当することも出来るので、業務に合わせた柔軟な働き方といえるでしょう。

3-4.社外にジョブローテーションという事例

スマホコンテンツ企画・制作で知られるドリコムは、「社会人交換留学」というユニークな制度を導入しています。
社内で行うのが通常のジョブローテーションを、他社に社員を留学させる形で実施しており、社員にも会社にも大きな刺激を与えています。
社会人交換留学の成果を「自社の強みや弱みを知ること」に設定することで、内部からでは見えにくい部分に目を向けることができ、
社内でのローテーションでは得られない俯瞰的な視野を得ることができます。

4.時代の変化とジョブローテーションの関係

これまで日本の大企業のキャリア形成を担ってきたジョブローテーションですが、一部の人事システムの専門家からは「時代の変化に合わなくなってきた」との指摘もあります。
要因としては「終身雇用の終わり」と「ジョブローテーションによる転勤」が挙げられます。

終身雇用の保証による社員の自由な配置替えが、ジョブローテーションの元々の本質だと1章で述べましたが、そもそも終身雇用を求めない風潮が強くなっているのは感じていると思います。
もちろん、社員としても長く働きたい気持ちはあるでしょうが、それ以上に他社で経験を積みたかったり、もっと良い条件・環境を求めて転職に踏み切ることを「悪い・させない」という考え方がいかに古いものであるか、職業の自由という考え方が年々高まっているのが現状です。
会社から用意される仕事じゃなくて、他社で自分の求める仕事をする、という積極性を抱く人が増え始めたことは、歓迎すべきことでもあるので企業としても理解していきたいですね。

一方で、部門・支社を全国やグローバルに展開している企業の場合、ジョブローテーションによる転勤は避けがたいものです。
しかし、結婚・出産後でも働き続ける女性や育児に積極的な男性、また親の介護をする人も増えており、そういった人たちにとって、転勤が発生する仕事とプライベートの両立は難しく、貴重な人材を手放さなければならない事態も少なくありませんし、最悪社会的な非難に発展するリスクもあります。

実際に、ネスレ日本では家族を介護中の社員と「転勤命令」を巡って裁判となり、企業側が敗訴している事例もあります。
企業からの一方的な転勤通達はもう成り立たないことを受け入れましょう。

このような事情を抱えた社員に柔軟に対応するためにも「従業員側がジョブローテーションを拒否する権利」を設けてあげましょう。
基本的には転勤に同意の上で現職に就かれていても、転勤できない理由があれば気軽に人事や上司に相談してほしいという企業側の受け入れ態勢があれば、今転勤が出来なくても将来子育てや介護が落ち着いた際に、出来ない人の代わりに転勤をお願いしやすくなるかもしれませんし、貴重な人材を手放すこともなくなるでしょう。

5.まとめ

元々は企業にとって、とても便利だったジョブローテーション制度。
ワークライフバランスを重視する今の風潮とは、企業にとってのメリットだけでは釣り合わなくなってきました。

ジョブローテーションがめぐりめぐって会社の利益になるか。モチベーションを下げたりプライベートにそぐわなくて退職を促してないか。社員各々に期待を込めて、様々な経験を積んで欲しいと会社の方針を伝えているか。

ジョブローテーションに限ったことではなく、これから取り入れる会社さんも既に取り入れている会社さんも、上手く使いこなす鍵は『社員と向き合って声を聞くこと』です。